亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
………影…?

しかし、敵意は感じられない。



暗がりの向こうには、大柄な人間の真っ黒な輪郭が浮かんでいた。

微動だにしないそれは、ただじっとローアンを凝視する。

一心に注がれるが、ピリピリとした視線ではない。



一歩、ローアンは警戒しながら近寄った。




静かに佇む大きな影の手前。
ここまでの道程同様に、爛れた古い蝋燭に、明かりが灯った。










ぼんやりとした小さな蝋燭の下で、その真直ぐな両眼が照らされた。













最初に目についたのは。
















―――燃える様な赤と………。

………透き通る琥珀色の……………互いに異なる………オッドアイ。
















「―――……ゲイン……侯爵……?」














キーツと全く同じ二つの鮮やかな瞳。

しかし、容姿や身体付きはあまり似ていない大柄な姿。

堂々とした、寡黙な、威厳あるその姿。




「……………貴方も……この城で………」


灯に照らされたゲイン侯爵の姿は、目を背けてしまいたくなる程…残忍な様だった。

したたかに刺された跡を残す衣服は血だらけで、彼の首には真直ぐな赤い線が横に入っていた。


首を落とされたのだろうか。










ゲイン侯爵は剣を鞘に納め………ただ無言で………深く頭を下げた。




そしてすぐに、真っ黒な液体と化し………………床に流れて消えてしまった。













…………助けてくれたのだ。


彼は。















「…………」

ローアンは短剣をしまい、再び歩き出した。

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