亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
重々しい縦長の、巨大な扉は、何者をも迎い入れるかの様に……その口を開けていた。
そこから漂う空気は妙に生温く、甘い香水に似た匂いを従えていた。
白い霧が足元を流れる。
霞んで見える目下には、長い長い緑の絨毯が敷かれており、それを辿った先には…。
―――…主無くとも神々しく輝く、高い玉座。
その背後に見えるのは………真っ赤な、石。
偉大なる狂王の、墓石。
「……………………………………ハハハハハハ………」
これは、歓喜か。
クライブは口元を手で覆い、漏れ出る薄ら笑みを押さえた。
謁見の間へ足を踏み入れた途端、武者震いに似た小さな衝撃が全身に走った。
広過ぎるこの部屋は、自分一人しかいないのに、何だか大勢に囲まれている様な感じがした。
青みがかったオーロラの様な霧が、天井を舞う。
クライブはぼんやりと天井を見上げながら、抜いたままの剣の先をフラフラと振っていた。
長い階段の先にある玉座に視線を移し、ゆっくりと近付いていった。
玉座の前で、グラリと霧が歪んだ。
自分以外の誰かがいる気がして、クライブは足を止めた。
「……………………………………………いるのか………?」
思わず口から漏れた自分の言葉に、クライブは首を傾げた。
誰がいるというのか。
私は誰も、待ってやいないし……会いに来た訳でもない。
「―――クライブ…!」