亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

燃え盛る炎を、二本の刀身はたった一振りで吹き飛ばした。

背後にいた影を、邪魔臭いと言わんばかりに薙払う。


その乱暴な、且つ華麗で正確な太刀筋に、ジスカは焦燥感から冷や汗をかいていた。



これはどういう事かな~?

この有り得ない事態は、やっぱり呪いですか…?……恐ろしい!糞恐ろしいね!何だってこんな時に…………………一番苦手な上司が出て来るかな…!


顔をしかめるジスカ。
彼の前には、剣を肩に抱え、ニヤニヤとほくそ笑む男が一人。
懐から取り出した煙管を口に咥え、煙を吐く。




『―――………よう……ジスカ。…でかくなったなぁ?肝っ玉は変わってねぇ様だが…』



……死んだ筈だ。


元第5部隊隊長は、総隊長に反逆を起こし、返り討ちにあって死んだ筈だ。


なのに何故……!

………バレン隊長が俺の前にいるんだよ!!

………他の人型の影は人形みたいにフラフラしてるってのに………なんでこの人はこんな生き生きしてんだよ!何かおかしいだろ!これ!


正面でやはり生き生きとしているバレンは髪をなびかせ、煙管を指先でクルクルと回している。

彼の長い足。膝から下は、ドロドロとした真っ黒な液体が波打っている。
………影………らしい。人の成れの果ては、影でもやはり、人であるらしい。


恐る恐る…ジスカは後退する。

………この人は…目茶苦茶、苦手だ。

苦手中の苦手だ。

配下についた時から……苛められてた。良い人なんだろうけれど………扱いが酷かった!あれは多分無意識だ!!……なんて質の悪い!

………まぁ……訓練の抜けだし方とかは役に立ったが…。


『……おいおい。何ビビってんだよ……会えて嬉しくないのか―?』
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