亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
それはもう爽やかな笑みをバレンは向けてきた。

その辺の女なんて軽く、ハートにクリティカルヒットするらしい笑顔だが………ジスカにしてみれば苛めモード、オン、の合図としか思えない。

「………嬉しくないです…」

『………酷ぇなぁ………何もそんな正直に言わなくっても。………俺のテンションについてこれねぇとは、まだまだ青いな、ジスカ』

「あんたのテンションは波が有りすぎるんですよ!!」

天敵に対し、何とか反発するものの、ジスカの汗は尋常ではない。

この男はあのベルトークやゴーガンをもガキ扱いして頭をバシバシ叩いていた勇者だ。(勿論、二人もバレンを天敵と見なしていた)

……バレンと上手く波長を合わせられるのは、グラッゾ隊長か………うまく流すトウェイン位だった。


その奴が、苦手な上司が………俺に……刃を向けている。

ついさっきも斬られそうになった。


「…………どういう事ですか…?……バレン隊長」

二本の剣を再び構え始めるバレンに、ジスカは警戒を強めた。



『……悪いな………俺の意思じゃねぇんだよ…』

そう答えるバレンの表情から、笑みが消えた。

突風の様に、殺気の塊が押し寄せてきた。

『………丁寧に火葬してくれねぇから……こんな事になるのさ………………後始末は、しっかり……な…?』

低く屈んだ体勢で、こちらを睨む目付きは……昔と変わらぬ、計算高い獰猛な獣そのもの。
咥えていた煙管をその辺に放り投げ、煙草臭い息を二本の剣に吹き掛けた。

――……瞬間、刀身は赤く瞬き…………炎を纏った。





『………命懸けで来いよ、ジスカ。…………手加減は出来ねぇって訳だ………』




バレンは、地を蹴った。
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