亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
その勢いにワイオーンは振り払われる。
「―――ガアアアアアアア!!!」
力を振り絞り、トゥラは咆哮を上げた。
その途端、背後に続いていた四つの分身はトゥラを追い越し、徐々に消えていく。
分身が完全に消えるのと、城壁を擦り抜けるはほぼ同時だった。
―――……トゥラ…。
………黒ずんだ視界の中で、力尽き、ワイオーンの群れの中に落ちていくトゥラに手を伸ばした。
手は、届かない。
城壁を擦り抜けた瞬間、トゥラの姿は見えなくなった。
「………丘から落ちたぜ…」
「…あんなに血を流してたんだ。さすがに力尽きただろ」
「城壁を何か黒いのが擦り抜けて行ったが……」
「ありゃあ分身だ。気にすることはねぇよ」
一気に静かになった丘から、兵士達は持ち場に戻った。