亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
この単純且つ大胆な罠に掛かってしまったことに、ベルトークは内心腹が煮えくり返りそうだった。
だが、この男はそんな内面を表に出しはしない。と言うより、出すことが出来ない。
冷静に、冷酷に。
一度染み付いたこの人格は、不動のものだ。
背後に控えている部下達は、ベルトークが訓練しているだけあって、こんな時でも落ち着いている。
部下の一人が、何処からか戻って来た。
辺りの偵察に向かわせていた者だ。
「―――報告致します。この囲まれた全土を見てきましたが、何処も火の勢いは同じです。ライマンも飛び越えられない様です」
「………他部隊は?」
「すぐ後方に第2部隊、最後尾に第3部隊がおります。負傷者は少数。囲いの外には敵兵が取り囲んでいる様で、推定二百から三百。ワイオーンも放たれております。………第4部隊は見当たりません」
「………御苦労。…下がれ」
部下は敬礼をし、仲間の列の中に引いた。
………周りを囲まれたか。………面白い。
ベルトークはこの四面楚歌の現状を、悪態を吐きながらも楽しんでいた。
心地良い緊張感、痛い程の殺気、夜明けに向かって過ぎていく時間。
(………第4部隊は…城壁に向かったか…)