亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
刃物で形の無い火など切れる筈が無い。
しかし、ベルトークの前には、亀裂が走る炎の壁が確かにあった。
亀裂はじわじわと広がっていく。
「―――何を驚いている。……壁に真空を作っただけだ。長くは保たん…」
真空を作っただけ………と軽く言うが、そもそも普通の人間に真空など作れる筈が無い。
並外れた速さのベルトークだからこそ出来る技だ。
「……私に続け。出た途端、敵の攻撃がくるだろう。…怠るな」
ヒュン、と剣を横に振り、ベルトークは真空で出来た穴から向こう側に移った。
下り立った途端、案の定敵兵の一人が声を上げて切りかかってきた。
……片目にはめたレンズをずらしながら、剣をゆっくりと兵士に向かって振った。
一度振っただけなのに、兵士の身体に一瞬で何十本もの切れ跡がついた。
………間を置いて、兵士の身体は積み木の様にバラバラと地に落ちていった。
細かい肉片と共に勢いよく血液が舞散る。
返り血が降り懸かる筈のベルトークは、いつの間にか屍の前から後に移動していた。
いつの間に…?
ベルトークは刃に付着した血液と白い脂肪分を拭うこと無く、ただ佇んでいる。
…剣先に火が触れ、新鮮な脂肪分に燃え移る。
細身の長い剣は、炎を纏った。