亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
炎を背景に佇むベルトークは、まるで悪魔だった。
……悪魔より、恐ろしい。切れ長の目が、妖しく光る。
「………どうした?………威勢がいいのは最初だけか。………たかが一人に………何を恐れる………この壁から出さないのが、貴様らの役目だろう………腑抜け共め…」
一歩踏み出す度に、敵兵は剣先を震わせた。
―――氷刃のベルトーク。
彼が国家騎士団の一人だった頃、誰もがそう称していた名だ。その非人道的な冷酷さは、今も変わらない。
実力を知っているからこそ、逆に立ち向かえなかった。
「………国家騎士団とは……名ばかりの烏合の衆であったか?………ふっ………否定もしないか…」
薄い笑みを浮かべ、ベルトークはまた一歩進んだ。
「―――違う、と言っておこうか…」
一言も発しない敵兵の中から、そんな声が飛び出した。
奥の方から、兵士を掻き分けて一人の男が前に出た。
男はベルトークを前に、にやにやと楽しそうに笑う。
………巨漢振りはゴーガンといい勝負だ。
ベルトークは男をじっと、見据えた。
「―――………幹部…オーウェン=ヴァンニ………少しはましな奴が出て来たな………」
オーウェンは地面に槍を突き刺した。
「…光栄だね…あんたにましだなんて言われるとは、俺って価値あるじゃねぇか」