亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「―――分かった。分かりま―した。………コールはまた今度でいい。………うしっ…先に俺だけ行くぜ。後から真似してついて来いよ~」

長い槍を両手で握り、少し勢いを付けて火の壁に走った。

………隊長が焼け死ぬ!?

馬鹿な事は止めて下さい!、と隊員数名がジスカを捕らえようとした。

―――が、上司の背中は急に目の前から消えた。


……呆気にとられる隊員達の頭上を、長い金髪が弧を描いた。


炎の目前で槍を思い切り地に刺し、その反動で槍を握ったまま両腕の力のみで身体を上に起こした。

すらりとしたジスカの身体は、垂直に伸びる長い槍の上で逆立ちの状態だ。
そしてそのまま…。

「―――よっ………」

腕に力を込め、弾かれた様に上に跳んだ。
くるくると身体を回転させ、緩やかに、華麗に炎の囲いを飛び越えた。
囲いの向こう側に難なく降り立ち、ぽんぽんと軍服に付着した砂埃を払う。

「―――ふぅ―……なんだ簡単じゃん………楽勝楽しょ……」

………顔を上げるとそこには、こちらを不思議そうに見詰めるワイオーンの群れ。

………あ―…出直して来ていい?



兵士の死体を貪っていた血だらけの牙が、呻き声と共にジスカに向いた。
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