亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「ほわぁ!?」
塔が大きく揺れた。手が滑り、短剣は固い床に火花を散らして跳ね返った。
その一瞬の隙をついてリストはイブを押し返し、暗がりに消えた。
……後を追っても良かったのだが………今気になるのはこの異常な揺れだ。
柵から地上を見下ろすと………有り得ない光景が広がっていた。
……花だ。
夥しい数の真っ黒な花が、地面、城壁、塔に隙間無く咲き乱れている。
花と花の間に、所々ミイラ化した死体が覗いていた。
塔の下を太い根が潜り込んでいる。……さっきの揺れはこのせいか……塔が倒れるやもしれない。
「――あちゃ~…マリアったら派手にやっちゃって……そろそろ止めさせないと…」
―――隊長は大丈夫だろうか。
一人奥へ行ってしまった。………隊長の所に行きたいが……彼女なら絶対…「私はいいからマリアを止めろ!優先順位も決められんのか馬鹿が!」
と、拳骨付で怒るだろう。
イブは柵から身を乗り出し、別世界の様な地上へ飛び下りた。
―――隊長…無事でいてね…。
今の揺れは…?
……パラサイトか…くそっ…。
トウェインはひたすら走っていた。
この奥。………気配を感じる。……足が竦んでしまいそうな程、強力な覇気。