亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
一時も視線を外そうとしない。
………優しい目だ。
驚いたのはトウェインだけではない。
突如態度が豹変してしまったルアに、キーツは困惑した。
「………ルア…?……どうした!…何故攻撃を止める…!」
いくらキーツが促しても、ルアは一向に命令に従わない。
………こんなこと初めてだ。
ルアはトウェインの前で立ち止まり………クン、と甘える様に小さく鳴いた。
「―――ルア…」
訳が分からない。
キーツとトウェインは唖然とするばかりだ。
………ゆっくりと尻尾を振る。躊躇いながら、トウェインに頭を下げた。
―――背後から、真っ黒な風が吹いた。
それは真っ直ぐ、ルアに飛び掛かった。
「―――ガアアアアアア!!」
白と黒がぶつかりあい、互いに牙を剥いた。
「………トゥラ!」
何処から入ったのか。傷だらけのトゥラは何の予兆も無く現れ、ルアに襲いかかった。
二匹は縺れ合い、四肢や首を爪で引っ掻いたり噛み付いたりした。
「ルア…!………っ!」
ルアの元へ駆け寄ろうとした途端、ひんやりとした冷たい空気を感じた。
咄嗟に剣を振り上げると、黒煙から生えた剣と交わった。
黒煙は徐々に晴れ、剣を握ったトウェインが露になる。