亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
………ローアンだ。
間違える筈が無い。細い輪郭も…スカイブルーの澄んだ瞳も…流れる様な髪も…声も…全部…全部………。
……あのローアンが……剣を俺に向けている。
………そんなのはどうだっていい。
―――…どうだっていいんだ。
困惑した彼女の揺れる瞳は、真っ直ぐ自分を映している。
……そのまなざしまで……変わらない。
「―――私は……!……私は!…………違う…!」
トウェインは短剣を落とした。
身体が……震える。
何故?
何故私はこんなに動揺している?
私は………。
―――私は…?
「―――…ローアンだ……君は………ローアンだ……」
大きな腕が、震えるトウェインを包んだ。
………されるがまま、強く抱き締められた。
………抗おうと思えば出来る。短剣を掴み直して胸を突くことだって出来る。
何故だろう…。
何も………考えられない。
「………ローアン……………………好きだ………愛している…」
耳元で囁かれる、切なげな、弱い声。
―――私は…。
―――私は………。