亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「―――けっ…主人に似て生意気な奴だ。…失せろ」

言われなくとも、とトゥラは踵を返して“闇溶け”をし、その場から消え去った。

………黒い煙の様な濃い闇の残骸が、真上に昇っていったのを、ジスカは見詰めていた。
………いつもの所にいるのだろう。





日の届かない谷底。
沈黙の谷は太陽を嫌う。
アレスの使者が拠点としているこの黒い塔。天高く伸びる最上階の屋根にいても、全身に浴びるのは暗闇だ。

………そんな場所からでも、あの白い城の輝きは嫌でも見える。夜空に浮かぶ星の様な、小さな国の象徴。過去の象徴。



トウェインは、この高い屋根の上で殆ど毎日城を眺めていた。
敵が命を捨ててまで守る城。
………憎い筈なのに…自分の全てを奪ったものなのに……何故だろう。
………悲しくなる。空しくなる。……妙なものだ。この感覚が何を意味するのか、全く分からない。

飽きもせず、ただじっと、トウェインは独り城を見詰める。



―――背後から、“闇溶け”の気配を感じた。ぱっと振り替えると、相棒のトゥラがそこにいた。甘えたそうに身を屈めながら寄り添って来た。トゥラはトウェインの隣りでしゃがんだ。

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