亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
―――隊長………隊長………。

………少しでいいの。少しでいいから………昔みたいに撫でて。


………思い出すと、落ち着かないの。













「………共食い…ねぇ。フェーラが共食いとは………」

「……本当ですよ。昨日まで居た筈の雄が、今は腕だけなんですよ………この雌、人間に完璧に化けれるし、その辺のフェーラより断然強い。しかもおとなしいんですよ。どうです?」

昨日からいろんな所に移動している。
首には変な固い紐が結んであるし………今朝は肉を貰って無い。

「……絶対に役に立ちますから…フェーラ狩りにはフェーラがもってこいです」

「………なんだかまだ信じられないが…いいだろ。置いて行きな」



檻は檻でも、今度のは小さな、個別の檻だった。

「本当におとなしいな……人間はもう食ったのか?」

真っ黒な頭の変な奴。格子の前でにやにやしてる。
………なんとなく真似てみた。肉をくれるかもしれない……。

「………真似したのか?……ハハッ、その辺の猟犬より可愛いな」

こいつの貧弱そうな手が、頭をわしゃわしゃと擦ってきた。


直に触られたのは初めてだった。

頭に手を置かれるのは、なんだかとっても嬉しかった。


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