亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
軍服と同じ灰色の体毛。滑らかな艶のある毛並みだ。

頭を撫でると、猫の様に喉を鳴らす。…どんなに獰猛でも、トウェインにとってトゥラは大きな猫だ。
独りでいる時、物思いにふける時、この子は側にいてくれる。

「………なぁトゥラ…あの城が見えるか?」

遥か彼方の輝きに向かって指差す。トゥラはトウェインに頭を預け、指差す方に目をやった。

「………私はな、トゥラ。………時々、あの城の中に入りたいと思う時がある。………夢を見るのだ……あの城に小さな女の子がいて…」

近頃は特に頻繁に見る不思議な夢。こうやってあの城を眺める度に…思い出す。

「私はその子を後の方からただじっと…見ているのだ………近付けないのだ」

トゥラが鼻を押しつけてきた。

「…女の子はな…城壁の内側にある、小さな花壇の側にいて………花を摘んでいるんだ。………こちらを向いてくれないから…顔が分からない………妙な夢だろう?」

優しくトゥラを撫でる。心地よいのか、トゥラは目を細めた。


「俺は初耳だぜ―?その話」

「―――…ジスカ…」

長い、明るい金髪が風に靡く。
いつの間にか背後で仁王立ちしていたジスカ。夢の話を聞いていたらしい。

………というかこいつ…今訓練中なのでは?

「……さぼりは規律違反だぞ」

「――…レモンキャンディーやるから黙っててくれ」

「………」

トウェインはちょっと迷った末にこくんと首を縦に振った。
< 24 / 1,150 >

この作品をシェア

pagetop