亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
廊下の向こうから、足音。
二人の足音。
よく知ってる音、リズム。
片方はどうでもいい。もう片方は……。
「―――隊~長~~!!」
イブはトウェインに抱き付いた。
腰の辺りにいきなりしがみついてきたイブに、トウェインとジスカは驚いていた。
「………どうした?こんな時間に大声を出すな…」
資料室からの帰りの二人。この時間、イブはとっくに寝てるのが当たり前なのだが。
イブは顔を埋めたまま動かない。
「………何だ?……おいイブ、怖い夢でも見たんですか~?」
「うっさい、スカめ」
「………名前を使ってからかうのは良くない!!そのスカは止めろ!何も入って無いみたいじゃねーか!」
喚くジスカを無視し、トウェインはイブに囁いた。
「………また思い出したのか?………イブは……変わらんな…」
溜め息を吐きながら、トウェインはイブの頭を撫でた。
あの時と同じ、優しい手。
傷つけたりしない、小さいけれど大きな手。
その時、思い出した。
ああ、あたしは…。
こうやって撫でられるのが好きだから、生きてたんだ。