亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~






「―――ほら、今朝孵ったのよ……小さいでしょう?まだ眠っているから…静かに覗いてね」




キーツは度々父と共に城に行く回数が増えた。
相変わらず父は理由を言ってくれなかったが、キーツはローアンに会えるのが嬉しくて、そんな事など気にも止めていなかった。

その日も、キーツは城の裏手に来ていた。可愛らしい微笑のローアンが決まって花畑の前で待っていた。

なんと聖獣の卵が孵ったらしい。
キーツは、白い花の花弁の影で丸くなった小さな姿を見た。


手の平位の大きさの、真っ白な獣。
頭には小さな青い玉のある角が生えている。………小さく寝息をたてていた。


「………これが…聖獣?」

「そうよ。……お母様の話では、ネオマニーという絶滅品種らしいわ」

いつの間にか隣にしゃがみ込んでいたローアン。花と違わぬ甘い香が鼻をくすぐる。

…ややどぎまぎした。


「……名前は?」

「まだ決めてないの。……貴方が決めてちょうだいな」

「……なんで?」

「私が育ての親なら、貴方は名付け親よ。良いでしょう?……どうかした?」

……キーツはちょっと呆然としていた。

………名前など…そんな大切なものを自分なんかが付けて良いのだろうか?
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