亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「どうかしたのキーツ……ついて来ないと迷うわよ。お城は広いから」
一歩前を歩くローアンが怪訝な顔でこちらを見ていた。
彼女は分からないのか……このびりびりぞくぞくとくる悪寒…殺意が…。
「……いや…あの…」
再度柱の方を見ると、幻ではない……黒い後光が射した険悪な少女がキーツを凝視していた。
………何?………なんかぶつぶつ言ってる。
「………あら、リネット姉様だわ。どうなさったのかしら…いつもに増して独り言が増えてらっしゃるわ………行きましょうキーツ」
近付けば何でも取って食いそうな姉を特に気にせず、ローアンは歩き始めた。
………姫君って……強者だ。
粘着質な悍ましい視線を背中にべったりと感じながら、キーツは半ば逃げる様について行った。
ローアンの部屋は驚く程………広い。そして必要な家具以外何も無い。
女の子の遊び道具である人形や、絵描き用の道具など一切無い。
巨大な本棚には分厚い本が所狭しと並び、埃など被っていない。
………本当に5歳児の部屋?
というか、彼女は本当に5歳?
あまりにも綺麗な部屋だから、靴の裏に砂埃が付いていないか何度も確認した。
部屋で二人の時は、戯いも無い話をしていた。