亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
――ブオオオオオオ……
――敵方の警報だ。
どうやら見つかったらしい。丘の上から、ちらほらと松明の明かりが見え隠れする。
今夜は奇襲ではなく、単なる偵察であったため、敵に見つかることは承知の上であったが………予定より早い。
誰かが気配を消し切れなかったのだろう。
…どの未熟な兵士がそんな事をやらかしたのだ…
警報の音が徐々に大きくなり、多数の足音がこちらに向かって来た。
地に耳を付け、精神を集中させる。
………ものの二、三秒で状況を把握した。
「………二時の方向に三十。…三時の方向から番犬五匹。…犬は“ワイオーン”……臆する事は無いだろう…容易に退ける」
弾かれるようにその場で立上がり、息を潜める部下達に鋭い声をあげた。
「―――全員退避!“闇溶け”を開始!」
言い終えると同時に、今まで視界にあった兵士達の姿が、まるで煙の様に一瞬で消え失せた。
影も形も何も無い。音も無く、消えた。
あとは風だけが、草原を走り抜ける。
丘の上に、剣を握った敵の兵士が数人現れた。その後ろから、およそ体長二メートルほどの、犬に似た真っ赤な獣が続いていた。
傍らで相棒が牙をむき出し、興奮して地団駄を踏む。
今「行け」と一言でも言えば、即刻躍り出て敵の兵士の一人や二人の喉を切り裂くに違いない。
………だが、我慢だ。
なだめる様に、艶のある豹に似た、灰色の体を優しく撫でた。
「………気持ちは分かるが…お前も退け」
そう囁くと、相棒は素直に従い、くるりと後ろに向きを変えて走っていった。
何も無い闇に、先程の兵士達同様、あっという間に消えた。
――敵方の警報だ。
どうやら見つかったらしい。丘の上から、ちらほらと松明の明かりが見え隠れする。
今夜は奇襲ではなく、単なる偵察であったため、敵に見つかることは承知の上であったが………予定より早い。
誰かが気配を消し切れなかったのだろう。
…どの未熟な兵士がそんな事をやらかしたのだ…
警報の音が徐々に大きくなり、多数の足音がこちらに向かって来た。
地に耳を付け、精神を集中させる。
………ものの二、三秒で状況を把握した。
「………二時の方向に三十。…三時の方向から番犬五匹。…犬は“ワイオーン”……臆する事は無いだろう…容易に退ける」
弾かれるようにその場で立上がり、息を潜める部下達に鋭い声をあげた。
「―――全員退避!“闇溶け”を開始!」
言い終えると同時に、今まで視界にあった兵士達の姿が、まるで煙の様に一瞬で消え失せた。
影も形も何も無い。音も無く、消えた。
あとは風だけが、草原を走り抜ける。
丘の上に、剣を握った敵の兵士が数人現れた。その後ろから、およそ体長二メートルほどの、犬に似た真っ赤な獣が続いていた。
傍らで相棒が牙をむき出し、興奮して地団駄を踏む。
今「行け」と一言でも言えば、即刻躍り出て敵の兵士の一人や二人の喉を切り裂くに違いない。
………だが、我慢だ。
なだめる様に、艶のある豹に似た、灰色の体を優しく撫でた。
「………気持ちは分かるが…お前も退け」
そう囁くと、相棒は素直に従い、くるりと後ろに向きを変えて走っていった。
何も無い闇に、先程の兵士達同様、あっという間に消えた。