亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
2.宴と夢
夜明け前。
黒い塔の周りで、魔獣ライマンの遠吠えが木霊した。
静かだった塔の中は、一気に騒々しくなった。
軍服の上衣に腕を通しながら、長い廊下を早足で進むトウェイン。今の今まで仮眠中であったが、すっかり目が覚めている。
トウェインの傍らに、突如黒煙が現れた。しかし姿は見えない。
揺らぐ闇の中から、声だけが聞こえてきた。
「――…塔の南東側と北にそれぞれおよそ五十。大きさは普通だけど、三メートル位のが二体。………イブとダリルは先に南東側の方へ行ったわ…」
声の主はマリアだった。
「―――他部隊は?」
「第2部隊は南東側へ。第3部隊は北側へ。………北側の方は少してこずっているみたいだから、隊長は北側へ…」
「―――了解だ。マリアは南東側へ行け。………それと………力の解放は駄目だ」
「―――…御意」
さあーっと黒い闇が消えた。
トウェインは軍服のベルトを締め、“闇溶け”をして塔の北側に向かった。
久しぶりの、影の奇襲だった。
意思の無い影達は、何の前兆も無くこうやって襲って来る。
敵は何も、国家騎士団だけではない。