亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
動く度にねばねばと糸を引く。蠢くその姿はなんとも言えないほど気持ちの悪いものだ。
黒い塊の中央に、ぼんやりと赤い光が宿っている。

………それは影の目。最大の弱点である。あの赤い目を貫けば、影は消滅する。


『――――……ハアアアアアア…………』

深い洞窟から漏れる風の様な呻き声。



―――俺が行く……小さい影だ。大丈夫…“闇溶け”も必要無いだろう…


仲間に目配せをし、一人の兵士が剣を構えて静かに歩み寄って行った。

ぬちゃぬちゃと気味の悪い音を立てて這う様に移動する影。


その動きが、ぴたりと止まった。


………兵士に気付いたのだろう。

中央の赤い目が、ゆっくりと表面に浮き出て来る…。

―――ズルッ…

真っ黒な塊に、真っ赤な目が現れた。
―――菱形の大きな目玉。
……そう…生きている目玉だ。

―――悍ましい…醜い姿。
あの瞳に…自分が映っていた。


「―――…っ!」


―――早く、消え去れ。

堪らず、兵士は影に向かって剣を刺した。

鋭利な切っ先は、真っ赤な目玉のど真ん中に突き刺さった。


『―――オオオオオオオオアアアア…』
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