亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「―――第4部隊隊員マリア=クローデルです……」
マリアは敬礼をして目の前の人物に頭を下げた。
相変わらずの、何も感じ取れない仮面の様な無表情を浮かべ、ベルトークは佇んでいた。
「―――入れ」
驚くほど殺風景な部屋だった。
無駄に広い室内には、必要な家具と、散乱した本の山だけ。
唯一の彩りを飾るのは、本の背表紙の色ぐらいだろうか。
………トウェインといい勝負かもしれない。
「―――そこに座っていなさい」
指差された方には、ぽつんとある古い椅子。
マリアは言われるままに腰掛けた。
ベルトークは軍服の上着を着ておらず、上は皺一つ無い白いシャツに、あとは軍服のズボンにブーツという姿だった。
………なんだか貴族みたいだなぁ…とマリアは思っていた。
ベルトークは部屋の奥へ向かい、すぐに戻って来た。
手には何か錠剤の様なものを持っていた。
マリアの向かいに佇み、手にした錠剤を脇のテーブルに置いた。
「…………右足を見せなさい」
マリアは黙ってマントを取り去り、右足を前に伸ばした。
薄暗い中でも、その悍ましい形状ははっきり見えた。