亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
………そんな自分が……初めて他人を好きになった。
こんな感情など今まで無かったのに。
見詰めることしか出来なかった。
初めて会った時と変わらず、彼女は笑っていて………目が離せなかった。
その女が今、自分の腕の中にいる。
こんなに近くにいる。自分を見てくれている。
笑いかけてくれる。
………愛しい。
それだけだというのに。何故こうも、胸の内が熱くなるのだろうか。
何故こんなにも、胸の内がざわつくのだろうか。
蠢く熱は終始存在を主張するかの様に暴れまわり、酷く煩わしいのに。
一度味わえば直ぐに染み着いてしまう。
厄介な中毒。
「………あ…」
マリアはベルトークの下で漏らせまいとする息を震える唇の隙間から漏らしながら、ベルトークの逞しい胸板に顔を埋めた。
「……隊長…」
「名前…名前で……呼んで下さい…」
「……………ベル…………トーク……………」