亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
自分は、この自分の名前が好きではなかった。どちらかといえば嫌いだった。
その名を名乗るのも、呼ばれるのも。耳にするのがあんなにも嫌だったのに。
今はどうだろうか。
嫌いな筈の名前を彼女の声で聞いているだけで、何かが満たされる気がした。
それが何なのかは、分からないけれど。
湿り気のある柔らかい肌。
甘い香り。
マリアのか細い声。
波の様に押し寄せるこの感覚。
ベルトークは我を忘れた。
「…マリア……マリア」
何度も呟いた。
何度も唇を重ねた。
自分の動作一つ一つで快感に酔い痴れるマリアが、愛しくて堪らない。
彼女の濡れた瞳が、真っ直ぐベルトークを見詰めた。
……その度に、ベルトークは心臓を掴まれた様に胸が苦しくなった。
私だけを……見てほしい。
………自分は……本当にこの人が………この女が………。
…ああ…恋い焦がれている。
「―――…愛しています……マリア……」