亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
ここはいつ来ても、肌寒い。
ひんやりとした冷たい空気が、足下をゆっくりと移動していく。
トウェインは真っ暗な部屋の扉の前で、ただ無言で立っていた。
一見、何も無いだだっ広い部屋。
古びた椅子とテーブルと、壁際に山の様に積み重ねられた本。厚い埃を被った錆びた鎧や剣。
………その中に、絶対的な、ビリビリと感じる存在の塊がいる。
それはまるで、獲物をじっと待つ、沈黙を守る殺意。
何処か曖昧な、掴み取れない殺意。
ここは、昔と変わらない。
何もかも。
「―――トウェイン=フロイア………参りました」
………返事は無い。
今まですぐに返って来たことは無い。
ひたすら、相手の指示を待つのみ。
「―――トウェインか」
低い、掠れた声が聞こえた。
「―――………トウェイン」
「はい」
「―――……こちらに来なさい」
「…はい」
トウェインは一礼し、ゆっくりと部屋の中央へ歩いた。
闇の中に、縦長い真っ黒な椅子の後ろ姿が見えた。
腰掛けている声の主は見えない。
椅子から二メートル程離れた場所で立ち止まった。