亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
―――家畜の納屋の側に積み上げられた、乾いた藁の匂い。
小川の水が回す小さな水車。
レンガ造りの古い家が建ち並ぶ丘。
細い砂利道が縦断する広場。
青々とした周りの森。
転々と広がる小さな花畑。
………今はもう曖昧な記憶しかない、私の育った村。
住人は皆家族同然だった、静かで、優しい村。
首都から果てしなく離れた所にある、何も無い田舎。
……………戦争の始まりと共に、その村は影に襲われた。
その時のことを、トウェインはあまり覚えていない。
気がつけば見知らぬ部屋にいて、怪我をしていて……………真っ白な髪の男がいた。
助かったのは私だけだった。
皆死んだ。死んで、真っ黒に溶けて、影になった。
………その光景を覚えていなくて良かったと思う。
当時トウェインはまだ10歳だった。
「………お前はどんな危険なことでも挑もうとする……妙な子供だったな………………目を離せなかった………」
「………」
真新しい灰色の軍服を着て、いつも総隊長の後ろをついてまわっていた。
近くにいれば、側にいて、遠くにいれば、追いかける。