亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
風に靡く草原のシルエットに、次々と敵の影が交わっては離れて行く。

敵地に姿も隠さず突っ立っているのは二人だけ。

「…ほーら………俺らも退くぞ………トウェイン!」

男に名を呼ばれ、漸く敵に背を向けた。

「………ああ…分かった」

「―――今は耐えろ」

「………」

こちらに剣を掲げて駆けてくる敵兵に、男はひらひらと手を振り、笑顔で言った。

「んじゃ。………お疲れさーん」

踵を返すと同時に、男の姿は夜の闇に消えた。
ワイオーンの一匹が、血眼で迫っていた。

トウェインは、敵を前にして何も出来ないことが忌々しく、小さく舌打ちをする。




「………番犬一匹殺れずに撤退とは…」






ワイオーンが、赤い口を開けて突っ込んで来た。
………その牙が食い込む寸前で、トウェインは目を閉じた。









「――………つまらん」




サアーっとトウェインの体は一瞬で宙に舞う砂埃の様に原形を失った。

………ワイオーンは手前で着地し、辺りをキョロキョロと見回した。
狙っていた獲物の姿さえ無ければ、臭いも皆無だ。





その場に駆け付けた敵の兵士達は、もはや何者もいない草原を、空しくランプで照らしていた。




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