亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「―――さっきより動きが鈍いぞ」
しわがれた声がすぐ側から聞こえた。
正面にいた筈のアレクセイがいない。
―――…ゴーガンは反射的に後退した。
瞬間、鈍い光沢を放つ鋭利な刀身が、真下から垂直に伸びた。
軍服の裾を切り、鼻先を掠めた。
速い……!?
最初よりも格段スピードが上がっている。
………動く度に、その動作は機敏さを増している。
………まるで感覚を取り戻しているかの様に、じわじわと。
「―――そうたやすく……アレクセイは倒せない」
キーツは荒野の小さな戦闘を眺めながら呟いた。
アレクセイの実力は、キーツが一番知っている。
「…………老いたとしても…………素質は変わらない。………さすが…………国家騎士団の元総団長だ…」
その背後に佇むオーウェンは、アレクセイの凄まじい剣術に舌を巻いていた。
「―――…次で終わりだな」
首、脇、腹部………。
目に見えない切っ先が間を空けず突いて来る。
軍服はぼろぼろだった。
………身体もなんだかおかしい。
…………足が動かなく………。
…………一瞬、身を引くのが遅かった。