亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
幼い頃の、途切れ途切れの記憶。
小さな村に住んでいた、淡い記憶。
村人の姿も、声も、あの村の風景も、風の感触も………鮮明に覚えているのに。
ふと、気がついたのだ。
………父と母。
どんなに記憶を辿っても、時間をかけても………………思い出せないのだ。
顔や声…全て………両親に関する一切の記憶が無い。
愛しいという感情だけが浮かんでいるだけで、甘える対象が影も形も無い。
何かおかしい。
おかしいのだ。
トウェインはそっと、厚いアカシック年代記を開いた。
暗い中でも、細かい埃が舞い散るのが見えた。
映える真っ白な頁。
………いつの間にか震えていた手を、頁の真上にかざした。
見様見真似だが……。
トウェインは大きく息を吸った。