亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
弱い雨が帽子にパラパラと降りかかる。

泣いている空はまだどんよりと暗く、当分は泣きやみそうになかった。
その方が好都合。雨は臭いを消してくれる。追っ手が放たれても、すぐには見つからないだろう。



軍服は濡れていく。
ひんやりとした冷たい空気は、冬の前だけあって身に染みる。




トウェインは“闇溶け”で剣を取り出した。

幼い頃から握っていた、もはや身体の一部である巨大な剣。


それを、濡れた地面に深く突き刺した。

鋭利な切っ先はいともたやすく、ずぶりとめり込んだ。

天を見上げた柄の先に、容赦無く雨が流れていく。





「……………トゥラ…」

そう呟いて背後を振り返ると、何も無い真っ暗な闇から、音も無くトゥラが現れた。


部屋にいた筈だが………気付かれた様だ。
歩み寄ろうとしたトゥラに、トウェインは来るな、と言った。

「………ついて来ては駄目だ。…………………お前まで巻き込みたくない……………いいな…?」




悲しげにトゥラは小さく鳴いた。
言われた通り、トゥラはそれ以上、近付こうとはしなかった。




「…………いい子だ……」







トウェインは踵を返し、まだ朝日が昇らぬ暗闇に走った。

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