亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
死んだ友に、自分は何かしら未練でもあるのだろうか。
だから、いつまでも二つの空席を置いたままにしているのだろうか。
クライブを取り巻く暗闇が、ぐらりと揺らめいた。
部屋の扉の前で、小さな黒煙が浮かび上がる。
「……………どうした………リンクス」
視線の先にあるのは蠢く闇だけだが、クライブはそれがベルトークであると分かっていた。
姿形の無い真っ暗な闇から、部下の声だけが聞こえてきた。
「―――………報告致します。……………………トウェインが裏切りました。………………………………脱走です」
「……………いつ頃だ」
「……………夜明け前であると思われます。………奴の剣が、塔の前に刺さっているのを部下が見つけました。………単独行動の様です。手引きをした者はいない……と、思われますが……詳細は不明。ライマンを追跡させようにも、昨夜の雨で臭いが消えています。行き先も不明…………第4部隊隊員も、何も知らない様です」
…………脱走。
クライブは口元を手で覆った。
………思わず笑みが浮かんだ。どうしても顔がにやける。