亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「ありがとう。遅れてすまなかったな」

キーツは足早に進んで行く。

すぐ後ろに続いていた師団長を隣りに並ばせて、そのまま歩みを止めずに口を開いた。

「早急に軍議を開く。オーウェンとリストを呼べ。……今夜の夜間訓練は中止だ」

「はっ」

師団長は軽く頭を下げ、キーツの向かう先とは別の方へ駆けて行った。


キーツはそのまま真っ直ぐ、貴族の塔へと向かった。














塔に入るや否や、アレクセイが一番最初に出迎えてくれた。


「御無事の帰還、何よりで御座います。……その様子ですと……軍議を開かれるのですかな?」

まだ何も言っていないのに、アレクセイはずばり心中を突いた。

「………急ぎだ。オーウェンとリストは何処だ?軍議が始まり次第、兵士を誰一人近寄らせるな。それと、夜間訓練の事だが………………………なぁ、アレクセイ……」

険しいキーツの表情が、アレクセイの手元を見た途端、訝しげな顔へと変わった。

「何で御座いましょうか」

……キーツはじっと、アレクセイが持っている物を凝視する。


「………その……古そうな衣服は何だ……?」


この問いに、この老紳士は上品な笑顔で返した。


「御婦人用の召し物に御座います」
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