亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「………………じゃあ……イブはもうすぐ冬眠の準備しないといけないのね…………大変ねぇ…」
「………いや、あたし起きてるから。人間社会で育ったから、普通のフェーラともう違うもん」
「………ああそっか。イブは野生じゃないものね。…………いつ頃アレスの使者に入隊したのかしら?私はもういたから………」
マリアは記憶を辿った。まだ入隊したばかりだったイブをよく覚えている。
第6部隊とトウェインが何処からか連れ帰ってきた少女。人間ではなくフェーラだと聞いた時は驚いた。どう見ても、10歳程の女の子だった。
ボロボロで返り血に塗れた衣服。生々しい切り傷だらけの身体。
…………涙目で震えていた、酷く怯えた姿。
何も話そうともしない。
目を合わせようともしない。
………まだ幼かったトウェインの後ろに隠れ、何処へ行く時もトウェインから離れなかった。
いつも無表情で、近付けば威嚇する様に唸り声をあげていたが、トウェインが話しかけると可愛らしい笑みを浮かべるのだ。
言葉や話し方、人間社会でのルールや決まり、そして戦術を、トウェインはまるで母親の様に教えていた。
それから徐々にイブは明るくなっていったのだ。