亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~

「………………じゃあ……イブはもうすぐ冬眠の準備しないといけないのね…………大変ねぇ…」

「………いや、あたし起きてるから。人間社会で育ったから、普通のフェーラともう違うもん」

「………ああそっか。イブは野生じゃないものね。…………いつ頃アレスの使者に入隊したのかしら?私はもういたから………」

マリアは記憶を辿った。まだ入隊したばかりだったイブをよく覚えている。

第6部隊とトウェインが何処からか連れ帰ってきた少女。人間ではなくフェーラだと聞いた時は驚いた。どう見ても、10歳程の女の子だった。

ボロボロで返り血に塗れた衣服。生々しい切り傷だらけの身体。

…………涙目で震えていた、酷く怯えた姿。



何も話そうともしない。

目を合わせようともしない。


………まだ幼かったトウェインの後ろに隠れ、何処へ行く時もトウェインから離れなかった。

いつも無表情で、近付けば威嚇する様に唸り声をあげていたが、トウェインが話しかけると可愛らしい笑みを浮かべるのだ。

言葉や話し方、人間社会でのルールや決まり、そして戦術を、トウェインはまるで母親の様に教えていた。


それから徐々にイブは明るくなっていったのだ。

< 668 / 1,150 >

この作品をシェア

pagetop