亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
イブはダリルから本を奪い取った。
………いろんな角度から見るが………何の変哲もない、ただの本だ。

「おかしい!!絶対読めてない!見える筈ないのに!!」

「………読むのに目なんか必要ないよ。返せ馬鹿」

イブのポニーテールを掴み、グッと引き寄せて奪い返した。

「……目で読まない………………難しいわね……それってどうやるのかしら?ダリルは凄いわね」




…………ザワリ、と…………胸の辺りが疼いた。







「…………別に…………………凄くない…………」









ダリルは視線をマリアに移した。

………焦点の定まっていない澄んだ瞳。


じっとこちらを映す双眸は………なんだか鋭くて、真っ直ぐで…怖かった。




「……………凄くなんか…………ない」














「………………そう……かしらね」





マリアはにっこりと微笑んで、目を逸らした。

「………あらあらイブ、寝るならベッドで寝なさい」

ダリルが積んでいた本を枕にし、いつの間にか床で爆睡していたイブに駆け寄る。





ダリルはすーっと、本の背表紙の文字を指で撫でた。

……見なくともその文字は分かる。

意味も、形も。





………過去、この本に触れたことのある人間の事も、何もかも。
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