亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
ゆっくりではないけれど速くもない緩やかな速度で、宙を切り進む細かな小石。
それが何処へ向かい、何処にぶちまけられるか分かっていたけれど、あえて避けようとは思わなかった。
………ビシビシと、肩や背中に小石が飛んできた。
「―――避けてみろよ!」
「どうしたのさ!」
「前は全部避けてたくせに!」
「見えないのに分かるんだろ!避けろよ!」
飾り物同然の、何も映さない二つの眼球。
それを隠す様に覆う瞼に、少し尖った石が掠っていった。
斜め横に刻まれた小さな切り傷。
じわりと熱を帯び、生温い空気がやけに冷たく感じる。
そっと指を添えると、ぬるりと何かが付着した。
「………ちぇっ…こいつ完全に無視だぜ」
「つまんねぇの……」
散々石を投げた後、少年達は悪態を吐きながら何処かへ行ってしまった。
―――……村の外れにある小さな教会。その裏手で独り佇み、無言で服の砂や埃を払い落とした。
時刻はもう日暮れ時。
森の天辺に赤々と輝く夕日は、徐々に沈んでいく。
真っ赤な光を全身に浴びているけれど。
その色も、濃ゆさも、強さも、輝きも。
ダリル=メイは、何も知らなかった。