亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
杖もつかず、手探りもしようとせず、ダリルはクネクネと曲がりくねった小道の真ん中を、常人と変わらぬ様子で歩いて行った。

この道は真っ直ぐ。ここを35歩進めば次は右へ。あっちは砂利道で足場が悪い。ここから20歩進んだ所に大きめの石が転がっているから、手前で軽く一メートル先にジャンプ。続けて斜め右二時の方向にジャンプ。


…………あらゆる場所の、どんな細かな道さえも、ダリルは知りつくしていた。

道の長さや角度、その辺りの地形………。


ダリルの頭の中には、巨大な、精密過ぎる程の一つの地図が存在しているのだ。

だから迷うこともないし、暗くてもお構いなしに歩ける。
普段闇しか見ていないのだから、ランプなどの灯は不要だ。

それに………。








………見えない筈の物が、どんな物か、形か、色か…………どういう意味なのか。

………何故か分かってしまうのだ。
対象物を前にすると、何も無い真っ暗な視界に………ぼんやりとその形が浮き上がって来る。

大きさも、それとの距離も、全て理解出来る。

外面だけでなく、その『内面』さえも分かってしまうのが少々難点だが。

これは決して、聴覚が優れているからだとか、想像力が豊かだからとは……違う。
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