亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
目の前の老紳士は、それはもう………悩んで悩んで悩んでいた。
一日一日が経過する度に、徐々に落ち着きが無くなっていく。
どうしたアレクセイ。
「…………おい。お前の元執事がなんかおかしいぜ…」
さっきからずっとあちこちの部屋を行ったり来たりなアレクセイを眺めながら、熱い紅茶を啜るオーウェン。
向かいに座り、何やらつらつらと国政について書かれている羊皮紙を睨むキーツは、それどころでは無いとでも言うかの様に、適当に返事を返した。
「………習性か何かだろ……」
「……………キーツ……俺は動物の観察をしているわけじゃねぇよ……」
そのすぐ脇で、リストは分厚い羊皮紙の塊を揃えて羽ペンをインク壺に突っ込んだ。
………書類整理が片付いたらしい。
キーツよりも早く。
少しも疲れていない様子のリストは、何度も何度も部屋と廊下を往復するアレクセイを眺めた。
「………何をしているんだ?」
「………さぁね。キーツ曰く、習性らしい。…………なぁキーツ?」
「………………ああ。………冬の前になると冬眠準備に入るからな………」
キーツは完全に意識を書類に一点集中させている。
アレクセイが冬眠?有り得ない。永眠の間違いでは。