亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
あと一枚……と呟くキーツを放置し、オーウェンは早足で歩いて来たアレクセイに…………足を引っ掛けた。
グラリと前に大きく傾むく細い老人の身体が、瞬時に跳躍した。
クルリと宙で一回転した後、アレクセイは軽業師の如く部屋の隅に着地した。
さすがアレクセイ。老いても腐ってもアレクセイだ。
「……………何ですかなオーウェン様?」
笑顔を向けられたが、心なしかこめかみの辺りに青筋が立っている気がする。
「………少しは落ち着けよ。どうしたんだ?今朝から………いや………ここ最近おかしいぜお前……。…………あ、これおかわり」
オーウェンは空になったカップを乱暴に投げてよこした。
カーブを描き、回転するカップをアレクセイは溜め息混じりにキャッチした。
「………畏まりました。………………ああぁ……」
なんか嘆いている。
こんなアレクセイ、そうそう見れるもんじゃない。
昔、幼かったキーツがプチ反抗期に入ってトイレから出て来なかった時、今と同じように慌てふためいていた気がする。
「………重大な事かもしれないだろ?………抱え込まずに話してくれ」
リストも怪訝な表情を浮かべて言った。
アレクセイは困った様に首を傾げる。