亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
眩しい陽光の下でも、小高い丘に聳える無人の城は劣らぬ光を放っている。
朝目が覚めて、最初に映るのは暁ではなく、この城だ。
堂々と聳える城をただぼんやりと見上げながら、息を吐いた。
………息が微かに白い。もう時期春が終わり、冬が来る。
フェンネル国の季節は、春と冬の二つしか無い。
一年の内、8割が春。残りの2割が冬だ。この短期間の冬が、驚く程極寒だ。
火まで凍ってしまうという凍て付いた某国程ではないが、かなり厳しい環境となる。
―――できれば、冬に戦は避けたいものだ。
肌寒い風を防ぐため、さっとマントを肩に掛ける。
フェンネル国の緑の紋章が刻まれた、真っ白な、騎士団の軍服。
腰の剣にも、紋章がきらめく。
丘の下の方では、鈍い刃の交じり合う音が絶え間なく響いている。
その中から、自分を呼ぶ大きな声が聞こえてきた。
低い、真のある声だ。
「―――おーい、キーツ!ちょっと来てくれ!」
剣の訓練をする兵士達の集団から少し離れた所で、ぶんぶんと手を振る巨漢。
ぱっと見た感じ、騎士団幹部とは思えない、威厳の無い朗らかな男だ。
………それが、オーウェンという男だ。
微笑しながら、キーツはオーウェンの元へ歩み寄った。