亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「………異様な男だとは……思っておりました」
ポツリとアレクセイが哀しそうな表情で呟いた。
「………空気の様に掴めない……目立たない筈なのに、その圧迫される様な………大きな存在感………常に……あの者の目には…………不気味な炎が浮かんでおりました……」
今思うと……もっと彼を見ておくべきだったのかもしれない。………警戒すべきだったのかもしれない。
しかしそれも……後悔に終わる。
“ユリア”という名は、いつぞやか耳にしたことはあった。
…………滅ぶ数年前だったと思う。
「………ある意味、誰も……あの男を見ていなかったのか………奴を知っている者も……」
「………」
孤独だっただろう。しかし彼の憎悪を維持する糧は、その孤独だ。
『………奴を知っている者は……ただ一人だけ………いらっしゃいました……もう亡くなられておりますが………』
「………知っている者?」
人々の記憶からも、カリオンの名を排除した狂王以外……他に誰が。
………守人は三人揃って、ローアンの方に振り返った。
真っ白なフードに隠れた見えない視線が、ローアンに注がれた。
『――――………フェンネル王53世で御座います』
『…………貴女様の母君、カルレット女王陛下………………』
『―――……………この御二人は……………………………互いに誓いあった………婚約者で御座いました………………』
―――…………婚約………者…………?