亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「……火を吹ける様になったのは何匹だ?」
「以前増やしたものも合わせて、約八十頭です。あとは殆どまだ若いですが、好戦的ですので戦場に出すことは可能です」
訓練中の兵士達を眺めるキーツに、第2師団長はハキハキと答えた。
兵士達の側には、興奮すれば朱を帯びて毛を逆立てるワイオーンが、今は大人しく、幾列にも並んでいた。
中には虫の居所が悪いワイオーンもいる様で、時折興奮して赤くなり、唸り声を漏らす口から火の粉が吹き出ていた。
「…火力を強化する様、以前より厳しく扱え。あまり時間が無いからな。それと、若いワイオーンは対ライマン用として強化だ。火を吐かない分動きが機敏だからな…」
「はっ」
第2師団長は敬礼をして部下達の元へ戻って行った。
その向こうから、ルアがキーツの元に駆けて来た。
擦れ違う質の悪いワイオーンに唸られたが、ルアが目を合わせるとおずおずと下がる。
獣の世界でも、聖獣ネオマニーの地位は高い様だ。
「……どうしたルア。………散歩は済んだのか?……寒いから中に入っていろ…」
時期はもう冬に入ったのだろうか。
吐く息は朝から晩まで変わりなく真っ白で、身を刺す様な寒気は日を追うごとに低下している。
まだ、雪は降っていない。
初雪はいつになるだろうか。
太陽が顔を覗かせられない程の、厚い雲が流浪する空。キーツはかじかんだ手に白い手袋をはめながら、何となく、見上げた。
昼だというのに…薄暗い。
「………………冬は嫌いだな……」
………『時』の訪れまで、あと五日と、迫っていた。