亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~



書庫にいるオーウェンを呼びに、キーツは一旦中に入った。

冷たい風から逃れる様に扉の隙間に素早く滑り込んだ。足元をルアが通り過ぎて行き、尻尾を振って螺旋階段を昇っていく。

「ルア………何をそんなにはしゃいで……」

何故かご機嫌なルア。軽快な足取りで駆けて行くルアのその先を見て、キーツは口ごもった。



肖像画を眺めていたローアンの側に、ルアは甘えた声で鳴きながら歩み寄った。

「……どうした?………………お前は幾つになっても甘えん坊だな……」

しゃがみ込んで、フワフワとした真っ白な身体をそっと撫でた。

ふと階下に目をやると………こちらを見上げているキーツと目が合った。

「―――」

「………」





………沈黙。
ハッハッハッ、というルアの速い息遣いが妙に響く。



キーツは無言で螺旋階段を昇り始めた。
立て掛けてある肖像画を一枚一枚を眺めながら、ゆっくりと歩を進める。



「………古い絵だろう?…汚れているが………これでもアレクセイが一生懸命直して…ここまで綺麗にしたんだ……………王族の肖像画は残しておかねば、ってね…」

「………」

階段上で五、六段の距離の所で立ち止まり、二人揃って肖像画を見詰めた。

二人の間で、ルアはウロウロしながら主人達の顔を交互に眺めた。

「………………何もかも無くなったんだ。…………今更………王族の存在を残しておいても意味が無い……」

「………」

キーツは怪訝な表情でローアンに視線を移した。
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