亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
…………もう色々と……参っているのかもしれない。
どういう運命の悪戯なのか。
自分一人が生き残り、別人格で敵勢力の中で約六年の時を過ごし、そして今は、物凄い速さで埋没した記憶が元に戻ってきている。
………目茶苦茶だ。
………何もかも。
………自分はもう、昔のローアンではない。トウェインにも戻れない。
ならば今ここにいる私は何だ。………なんて不完全なんだ………。
―――君は……君一人だ…
(…………)
つい先程あの男から言われた言葉が、不意に脳裏を掠めた。
………すっと目を閉じると………何処か悲しげな音色が、懐かしさと共に流れ込んできた。
「―――………………谷を………過ぎる……調べを羨み……」
無意識で、口から漏れる音色。
………知っている。……知っている歌だ。…………………昔……遠い昔……………歌っていた。
真っ白な、小さな花畑の中で。
「………………歌を歌えぬ……………鳥は……調べを…………羨む………」
暖かい風が吹く。
白い花弁が揺れる。
髪がなびく。
淡い陽光が射し込む。
………懐かしい。
………懐かしい感覚。
―――……ローアン。
呼んでいる。誰かが。
ゆっくりと流れる時の中、振り返ると……そこに…。
………思わず……顔が綻んだ。
「――…キーツ……」
……目を開けると、応接間の風景が真横に見えた。
…………いつの間にかソファに横になり、寝ていた様だ。