亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
すぐ傍らを、大小様々な古い荷車が過ぎて行く。
………奇妙な光景だった。
隣りに広がる村々は人気が全く無いのに対して、この道を歩く人口密度の方が高い。
そんなに多くも無い家財を荷造りし、足早に駆けて行く。
………家を捨てて、逃げているのだ。
……隣りの村へ。街へ。もっと遠くへ。何処かもっと……。
光沢を失った緑の毛並みのやせ細ったビーレムが、鞭打たれながら泥水を踏み締めて行く。
「………もっと南へ行かないと……」
「………北の方でまたあるのでしょう?」
「………またか…。いつになったら終わるんだ?」
「………今回のは大きいって聞いたわ……………どの辺りまで影響が来るのかしら…」
「…どっちが勝とうと…………それで国が良くなるとも限らないのにな……」
「…とにかくもっと遠くへ………!………戦火に巻き込まれて死ぬのは御免だわ………占いでも危険って出たのよ…」
「………皆、神声塔の方に避難している様ですよ…」
「この騒動に乗じて賊なんかが出なきゃいいが………」
行き交う人々の声は絶えない。
………………両勢力がぶつかりあう時……こうやって民は何処かへ避難するのか…。
季節は冬の始め。
今日は日が出ているというのに、空気は酷く冷たい。
しかし、視界に映る民の姿は、どれも決して暖かいとは言えない程薄着だ。
………物資が無いのだ。
貧困が進んでいる。
………ふと、後ろに控えているマントで身を包んだ男がそっと耳打ちしてきた。その男の他にも、数人が続いている。
「―――………このまま民に紛れて、神声塔まで向かいます」
「………分かった。……………日暮れ前には着くのだな……。もういい。目立つ。……少し離れて歩け」
「……はっ」