亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
―――…俺は………生きている。
彼女は死んだ。
ルアは低い唸り声を上げながら毛を逆立て、そっとキーツから離れた。
城を見詰めるキーツの目は………恐ろしい程殺気立っていた。
激しい憎悪。
醜い炎は、消えない。
「―――おんや…まーた物思いに耽ってらっしゃるよ……うちの若大将は…」
城下からオーウェンは、窓際に立って城をじっと見詰めるキーツを見つけた。
……毎日、あれだ。
側で、リストは眉をひそめる。
……戦火の中、孤独に打ちひしがれ、惨めに生きていた自分を拾ってくれた総団長を、自分はとても尊敬している。命の恩人だ。自分を子供だと思わず、一人の人間として見てくれる。この人のためなら、何だって出来る。
ただ……物思いに耽る時の彼は………嫌いだ。
「…俺は…あの総団長は…気に入らない」
熱血忠実なリストが、ぼそりと失言を放った。
オーウェンは「およ?」と驚いて顔を向ける。
「―――あの人は国の再興のために戦っていると思ってるが……自分自身気付いて無い…」
憎悪の中にちらほらと見え隠れする……寂しそうな姿。
「………昔の…想い人のために戦ってる。………あの人の頭の中は、ローアンとかいう女のことしか無いんだ…」