その腕で抱きしめて









*彩名side





「ちょ、待って」



玄関を出て曲がったところで
呼び止められ後ろを振り向くと
頭を右手でぐしゃぐしゃとしながら
スエット姿にTシャツで
つっかけをはいた誠哉さんが
あたしの方へ来る。




「ごめん。」



誠哉さんは深々と頭を下げてきた。


「…その…顔、上げてください」


あたしは頼むと顔を上げて
真っ直ぐあたしを見る。



「俺、あの夜の事ほんとに覚えてなくて…」


「もう考えないんで大丈夫です!誠哉さんも忘れてください」


あたしは笑顔で言った。



考えないなんて嘘だけど、
こう言うしかなくて


「でも……」


気まずそうな顔で見る誠哉さんが
少し恋しくて

「あたし…誠哉さんが好きでした。ほんと少しの間でしたけど、大好きでした。」



「……え?」


驚いた顔で見る誠哉さんは可愛いくて


「ふふ…だから……嬉しかった。嘘だとしても。」



あたしは少し笑顔で言った。



「俺…、彩名ちゃんの事好きだよ」




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