♥恋と事件簿♥
予定より遅くなり、19時にようやく仕事を終えた。
課長のBMWに乗り込み、私は斗真が指定した居酒屋へと向かう。
ウインカーが外車は左側にあるという事を再確認し、エンジンをかけた。
「外車、乗った事あんのか」
「何回か。叔母……七星の母親が趣味でベンツに乗ってるで」
「どんな“趣味”だ」
どんなもこんなも。
…そんな趣味?
意味のわからない質問はシカト。
私は自分の車より小さいこの車でも、傷付けぬよう注意して運転。
人の車だと、どうにも不安。
両親や斗真の車だと緊張しないのに。
肘突きを使わない運転は久しぶりかも知れない。
でも、慣れたらこっちのもの。
駐車も終え、私たちはお店に入った。
斗真たちはもう到着して居て、私と課長は空いた席に座った。
隣に座った課長はネクタイを緩め、「ビール」と言ってる。
「ダメです。烏龍茶を二つ下さい」
「一杯だけ呑ませろ」
「嫌ですね」
私は2人分の烏龍茶を頼み、メニューを見ながら壁に凭れた。
誰かと食べる夕食は久しぶりで、何を食べたら良いかわからない。
「だし巻き卵。いや、ホッケが食べたい」
「渋いな」
「そうですかねー……」
課長の厭味なんて気にしない。
1人では食べないものを食べないと。