♥恋と事件簿♥
「今日は俺を諦めて貰う為に来た。婚約者だ」



…そういう事。

私を連れて来たのは、婚約者に成りすませるわけだったんだ。

たいした人だ。

噂が広まったら、父親にバレるのも時間の問題。



「本当に、婚約者さんなんですの……?」



「そうですね」



「そんな……っ……」



それに泣かせちゃって、罪な男。

モテる男は苦労するって、悠呀や斗真たちを見ててわかってたけど、それより凄い。

彼女以外は、指を銜えて見てるだけなんだから。



「嫌です……嫌ですわ……っ!父上にお願いしてでも、私は黒田さんと……っ……」



…この人、お嬢様?



「“父上”って?」



「私の父上と黒田さんのお義父様は、国会議員なんですの……」



「黒田芳樹先生?」



「そうだ」



…嘘でしょ!?

小さい頃、お年玉を貰った記憶がある。

叔父さんの大学の先輩だった筈。

斗真の結婚式にも、来てくれたような。

…こうなったら……。

黒田先生には、我が家も義理がある。

私は早く帰れる手段も思い付き、深呼吸をして笑顔を作った。



「私、難波愛依です。私を敵に回したら……知りませんよ?」



「…………;;」



作り笑いは脅しの効果を高めたみたいだ。

課長の腕を引っ張り、私は非常階段の脇にある喫煙ブースに入った。
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