♥恋と事件簿♥
背中をドアにくっつけ、謂わば壁ドン状態。

しかし、そんな甘さはなくて、顔の目の前には包丁。

無線は取られてしまった。

こうなっては、今ここで作戦変更を伝えてては男に筒抜けな状態なわけで。

それだけでも阻止するには、私は大人しくここを出て報告しなきゃならない。

だが、自分から言っといて退く気配はない。

私は男の目に注意しながら、コソコソと手を動かした。

無線の本体は私のパンツのポケットに入ってる。

イヤフォンコードを抜いては、男にバレてしまうだろう。



「何か、作戦は聞こえた?」



「そんなの必要はない」



私は本体の通話スイッチを押し、男と会話。

これだけでみんなわかっただろう。



「何かしたか」



「してませんね」



「まだ誰か表に居るのか」



「居ましたけど、今はどうか」



喉元に移る包丁。

私が少しでも動いたら、刃が鋭ければ切れてしまうだろう。



「貴方……?」



「お前は座ってろと言っただろ!!」



「いっ………、」



「貴方――っ!!;;」



私は動かなかったのに、女性の呼び掛けに反応した男によって首を掠めた包丁。

刃が鋭かったらしく、いくら深くなくとも切れたようだ。

指先を紙で切ったように、熱を感じた傷口。

サーッと首筋を這う血が気持ち悪い。
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