♥恋と事件簿♥



静寂が包む病室。

眉間にシワを寄せ、パイプ椅子に座ってる父親。

ドアの付近で佇む斗志樹と斗真。

母親は父親の機嫌を直そうと、肩を摩るも、変化はない。



「あれほど言って来たんや。お前が悪い」



「そうだね」



「せやけど、刃に微量やろうと毒を塗った立て籠もり犯も許せへん」



「…………」



父親の娘を思う、私を心配してくれた気持ちはわかる為、頷くしかない。

やり場のない怒りを誰にもぶつけずに、堪えてるのは、私に当たって気が済まないからだろう。



「俺はもう帰る。今晩は頼んだ」



「はい」



斗志樹に声を掛け、私を振り返らず出て行く父親の後を追う母親。

「また明日」と言いながら、まだ居ようとした斗真の腕を引っ張りながら帰って行った。



「座って」



「あぁ」



動こうとしない斗志樹に、父親が座ってた椅子に座るように促す。

素直に座った斗志樹のシャツに手を伸ばし、ダラリと長いチェーンを引っ張ると指輪が顔を出す。

さっきの勘は間違いなく、悠呀の形見。

嵌めたままだった私の薬指に嵌まる指輪のペア。



「気付かなかった。ここにあるなんて」



「言わなかった俺が悪かった。何度も電話したのに連絡はつかないし、自宅にも居ない。柄にもなく寂しかったんだな。指輪に縋るしかなかった」



「会ったら時間が過ぎちゃうから……」



休み間しか会わない時間はないのに、悪足掻きしてたんだ。
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